授業の目標・概要 高校における微分や積分の単元では,まず極限の概念を学びます.その際の極限の定義は,「限りなく近づく時」といったやや曖昧なものです.ニュートンやライプニッツが微積分学を創始した際も極限の扱いはそのようなものでしたが,その曖昧さ故に間違った結論を導いてしまうこともありました.19世紀に入るとこれらを克服するためにより厳密に極限や実数の概念を定義する試みがなされ,長い議論の末に最終的に「ε-δ(イプシロン-デルタ)論法」という形で極限の定義がなされました.19世紀中頃に生み出されたε-δ論法は,その後の数学の発展において他の概念に上書きされるものもなく生き残ってきたタフな概念で,今なお微積分学(解析学)の基礎として大学で学びます. このε-δ論法はすでに述べたとおり現代の解析学には必須な概念です.しかし,一方で特に学び立ての初学者に対しては悪名高い概念でもあります.その理由として,定義が込み入っていて一見してわかりにくいからであると思われます.本講義の目標は,グループワークを通してこのε-δ論法を深く学び,理解することです.また,ε-δ論法だけでなく,「デデキントの切断」,および発展的な内容として「p進数」を扱います.デデキントの切断は,ε-δと同じく解析学を厳密に再構築する努力の上で生まれた概念であり,実数の厳密な定義を与えるものです.p進数は整数論的な問題に端を発して考えられた,実数とは異なる別の「数」の概念です. 本講義では,まず全体を小さなグループに分け,上で述べた三つのテーマの一つを深く掘り下げていき,最終的に班で一つの短い「講義」を作ることを行います.このような体験を通じて,テーマへの理解を深めるほか,文献・資料の収集法,グループによる共同学習の手法などについても習得することも目標とします. 初年次ゼミナール理科の評価方法によって評価します。 成績評価方法 授業のキーワード 原理解明・伝達型、数学/解析学、実数、デデキントの切断、イプシロン-デルタ論法、p進数 教科書 ガイダンス 次の教科書を使用する。/Will use the following textbook 書名 著者(訳者) 東京大学教養教育高度化機構 Educational Transformation 部門・若杉桂輔・宮島 謙編 出版社 ISBN その他 第1回授業日に行う。ガイダンス教室については掲示板等で告知する。 初年次ゼミナール理科 31591 木 2 科学の技法 第2版:東京大学「初年次ゼミナール理科」テキスト 東京大学出版会 解析学の基礎 阿部 紀行 理学部
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