2024Sシラバス
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17世紀バロック美術(絵画・彫刻)と西欧31771 金 1 駒場アカデミックライティングセンター 授業の目標・概要 【共通目標】 大学では「問い」の「答え」を探求する前にまず「問い」自体を自分で見つける必要があるという点を理解し、学ぶ姿勢の根本的な転換を目指す。授業を通じて「問い」の立て方、「理論」についての考え方、「研究方法」の設定の仕方、学術資料の収集の仕方、議論の根拠の導き方、論述の組み立て方などのアカデミックスキルに触れ、それらを習得する。また、自分が取り組む「問い」が学術的・社会的に意義のある「問い」であることを主張する必要性を理解する。 「問い」の「答え」を導くに当たって必要な、先行研究の理解とオリジナリティの主張の方法(剽窃の防止を含む)、議論と根拠の関係などといったより基礎的な作法および図書館などの研究リソースの利用方法を、第2回の合同授業で学ぶ。 【この授業の目標・概要】 17世紀の西洋美術はバロック美術と呼ばれます。当時の西欧社会は、人間中心の世界観が芽生えたルネサンスの科学的・客観的な精神を受けつぐ一方で、とくにイタリアやスペインなどのカトリック圏では対抗宗教改革の推進とともにキリスト教への情熱がふたたび高揚しました。美術の分野でも、聖職者や王侯貴族の注文を背景に宗教絵画・彫刻がさかんに制作されます。この時代を経て西欧諸国は、18世紀から19世紀にかけて啓蒙思想の流布、産業革命・フランス革命の勃発、そして本格的な近代社会の成立を迎えることになります。結局のところ17世紀とは、前近代から近代への最後の過渡期として双方の要素が混交する時代、とりわけ科学的な合理性と宗教的な神秘性がときにせめぎあい、ときに手をとりあう時代であったといえるでしょう。 一方でバロック美術は、西欧のそれぞれの国・地域、都市ごとに現地の政治・社会・思想的な状況を背景とした個性的な様相を呈します。たとえばバロックの始祖と目される画家カラヴァッジョ(1571-1610年)を擁するイタリアでは、おおむねダイナミックでドラマチックな表現が好まれました。スペインでも同様の傾向が認められ、さらに熱烈なカトリック信仰を反映して宗教行列用の彩色木彫像が大量に制作されました。それに対してフランスでは、画家ニコラ・プッサン(1594-1665年)の作品に代表される古典主義様式という均衡と調和を旨とするスタイルが主流となります。オランダではいちはやく市民社会が成立したことから、市民層にとってより身近でわかりやすい風景画や静物画などの新たなジャンルが登場して人気を博しました。 このゼミではバロック美術をテーマに、17世紀西欧のさまざまな国・地域、都市で生みだされた絵画・彫刻作品を分析・調査し、それをとおして各地の政治や社会、思想などの状況を考察することを目標とします。美術作品は、後世の人間にとってはしばしば時代の証言ともなります。たとえば冒頭で挙げた科学と宗教の接近という文脈でいえば、スペインの画家ディエゴ・ベラスケス(1599-1660年)は《無原罪のお宿りの聖母》(1618-19年頃)という宗教画において、聖母マリアが太陽を背に従え、月に足を乗せて天から降ってくる様子を表していますが、あえて月の上半分をあかるく描いています。それは、「月は太陽の光を反射して輝く」という天文学的な見地を踏まえた結果であることが知られており、宗教の文脈における科学精神受容の一端が表れているといえます。ただし、この現象がベラスケス個人とその周辺にとどまるのか、それを超えてスペインでひろく認められるのかに関しては、さらなる分析・調査を必要とするでしょう。 ゼミでは履修者ひとりひとりに、担当者が準備したいくつかの候補のなかからひとつの絵画・彫刻作品を選び(候補以外の作品を選ぶことも可能)、プレゼンテーション形式で作品解説(主題、意味内容、表現様式、制作動機、政治・社会・思想的背景などを20分程度で解説)をおこなってもらいます。その際には、ディスクリプション(作品記述)という美術作品を紹介、分析するうえで不可欠な「イメージの言語化」に頭を働かせることになるでしょう(原稿は発表後に添削、コメントして返却)。最後に、選択作品とその周辺のさらなる分析・調査をとおして17世紀西欧の特定の国・地域、都市のなんらかの時代状況を考察する小論文(4000字)を提出してもらいます。 なお、小論文執筆については駒場アカデミック・ライティング・センターあるいはラーニング・コモンズにおいて支援を受けられます。早期から積極的に利用してください。 【学術分野】歴史学 【授業形態】ディシプリン型 出席、報告および議論への貢献等の平常点と小論文とで判断する 成績評価方法 授業のキーワード 美術、ヨーロッパ、歴史、絵画、彫刻、バロック 教科書 ガイダンス 教科書は使用しない。/Will not use textbook 書名 著者(訳者) 出版社 ISBN その他 第1回授業日に行う。ガイダンス教室については掲示板等で告知する。 社会――美術をとおして見る歴史 豊田 唯 初年次ゼミナール文科

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