2024Aシラバス
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1年 文科 理科 2年 文科 理科 水 5 A 時間割コード 総合科目 B(国際・地域) 50693 講義題目 授業の目標概要 成績評価方法 教科書 ガイダンス 開講 授業科目名 日本語日本文学Ⅱ 口絵・挿絵から読む日本近代文学 日本の近代文学は、現在ではほぼ例外なくテキストのみの状態で読まれているが、実際には口絵や挿絵といった図像とともに発表されることが多かった。そして、それらの絵画は、文学作品を読んだ画家が自由かつ主体的に描くのではなく、逆に作者からの指示を受け、そのとおりに描くのが江戸時代以来の慣例だった。すなわち、坪内逍遙・尾崎紅葉・幸田露伴・樋口一葉・島崎藤村・泉鏡花・田山花袋・夏目漱石といった、近代前期を代表する作家たちは、みな絵に指示を出すことを求められていたのだった。しかも、この制作慣習は作家・画家や作品のジャンルによっては、昭和初期まで続いていたことがわかっている。 これはすなわち、そうした作家たちにとっての自作とは、みずから指示した絵と文章がセットになった形だったということである。もちろん、その態度は様々で、特に工夫なく物語の一部を順当に描くよう指示した作家もいれば、そうした慣習自体に反発し、絵への指示を強く拒否した作家もいる。そして、なかには文章と絵とが支えあうコラボレーションを試みた作家もおり、そうした場合、当の絵を見ず文章だけを読むのでは、作家の目指したところを理解するのは不可能である。 一方、こうした江戸以来の慣習が近代出版に組込まれたことで、様々な問題も引き起された。特に、起筆前のような早い段階での指示が求められたため、執筆中に構想が変るなどして、本文と絵が食違うことは大きな問題であった。しかしこれも、現代の文学研究の視点からすれば、絵のなかに作品の原構想が保存されているということであり、作品理解の重要な手がかりとなる。 この授業では、以上のような観点から、主として明治中期から大正期にかけての文学作品に附された口絵や挿絵を取り上げ、小説の解釈と分析、図像分析、出版と印刷の状況などを概説する。特に、森鴎外「文づかひ」・樋口一葉「十三夜」・尾崎紅葉「多情多恨」「金色夜叉」・泉鏡花「清心庵」・田山花袋「蒲団」といった有名作品を題材として、絵画を手がかりにその読解を再検討することを試みる。同時に、絵画の理論的分析方法や、彫師・摺師をはじめとする印刷技術の見分けかた、それらを紙誌面や書籍上で組み合わせて出版にいたる編集の実際など、狭義の文学研究にとどまらない多角的な知見を、実資料とともに解説する。そうした基礎知識のうえに立ち、小説の解釈と図像分析をいかに取りあわせ、そこに単行本・絵入り新聞・文芸雑誌などのメディアとのつながりをどのように定位して、明治文化の解明へとつなげてゆくのか、その方法と可能性について講義してゆく。 また、講義の最後では、旧著作権法の整備過程にまつわる法制史的問題と、現代の知的財産法の問題にふれ、制作者の権利のあり方についても考える予定である。 レポート100%。 次の教科書を使用する。/Will use the following textbook 日本近代文学館編・出口智之責任編集 『明治文学の彩り―口絵・挿絵の世界』 春陽堂書店、2022年8月 4394190304 電子版でも可 特に行わない。/Will not conduct guidance 担当教員 出口 智之 所属 国文・漢文学 曜限 対象

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