2023Sシラバス
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- 展覧会と同期した調査と実習 大学では「問い」の「答え」を探求する前にまず「問い」自体を自分で見つける必要があるという点を理解し、学ぶ姿勢の根本的な転換を目指す。授業を通じて「問い」の立て方、「理論」についての考え方、「研究方法」の設定の仕方、学術資料の収集の仕方、議論の根拠の導き方、論述の組み立て方などのアカデミックスキルに触れ、それらを習得する。また、自分が取り組む「問い」が学術的・社会的に意義のある「問い」であることを主張する必要性を理解する。 「問い」の「答え」を導くに当たって必要な、先行研究の理解とオリジナリティの主張の方法(剽窃の防止を含む)、議論と根拠の関係などといったより基礎的な作法および図書館などの研究リソースの利用方法を、第2回の合同授業で学ぶ。 【この授業の目標・概要】 このゼミは、本年5月13日(土)から6月25日(日)にかけて駒場博物館にて開催される展覧会「近代ロンドンの繁栄と混沌(カオス)―東京大学経済学部図書館蔵ウィリアム・ホガース版画(大河内コレクション)のすべて」と並行して開講されるものです。ホガース(1697年-1764年)はイギリス18世紀前半に活躍した版画家・画家です。近代化を遂げていくイギリスを象徴する都市ロンドンの繁栄と同時に、その背後にある犯罪や貧困など負の側面にも目を向け、諷刺的な視線を織りまぜながら社会を活き活きと描きだしていきました。東京大学経済学部には、東京大学第18代総長大河内一男および名誉教授大河内暁男が蒐集したホガースの版画コレクションが所蔵されています。今回駒場博物館ではその作品を一挙に展示する展覧会を開催することになりました。本ゼミでは展示されたホガース作品を実際に目で確かめながら、その意義と魅力をイギリス18世紀の社会と歴史の中に位置づけながら検証していきます。 18世紀のイギリスは、17世紀末の金融革命を経ると同時に、「財政軍事国家」と言われる積極的な財政政策と軍備増強、対外戦争、その結果としての植民地拡張と海外貿易の推進によって、前例のない経済の活性化を経験することになりました。富の蓄積と環流によって消費文化が花開く一方で、風俗紊乱と貧富の格差拡大といった問題が社会の中で意識されていきます。1666年の大火後のロンドンでは再建と整備が進められ、スクエアを中心にした幾何学的で啓蒙的な都市空間が構築されていきますが、その一方でシティの通りでは雑踏がひしめき、犯罪や買春が横行し、裏通りや郊外には法権力に対する抵抗勢力がはびこることになります。名誉革命後に議会政治が確立されたとみなされがちですが、選挙では賄賂などの腐敗が跋扈し、貴族をヒエラルキーの上層に位置づけた階級が民主主義や自由の理念を有名無実なものと化してしまう状況が生まれていました。 そうした相矛盾する、あるいは混沌とした社会の実態を、ホガースの版画は繊細かつ鋭利に写し取っています。寓話的でありながら現実主義的なまなざしを備え、諷刺的でありながら写実的な描写を保ったその絵は、鑑賞するものに細部まで含めた解釈を要求し、社会が抱え込んだ矛盾や軋轢、亀裂や不協和音に対して問いかけてきます。 授業では、展覧会前のインストレーション準備作業を補助したり、展示中の作品に対してコメントや疑問を付すなどの作業を通して、展覧会に関与することで博物館・美術館運営の一端を学びながら、学際的なアプローチから歴史、社会、美術、文学などについてアクティヴに研究し、調査することの初歩を修得していきます。歴史学や美術史、経済史や社会法制史、文化史や文学など興味や関心は多様で構いません。それぞれの立場からホガースの版画から読み取れるものを解き明かしていくことを目的とします。 履修者はそれぞれ課題とする作品を2、3選択してもらい、それらについて1学期間を通してそれぞれの立場から意味を解きほぐしてもらいます。それらを小論文にまとめると同時に、展覧会作品についての解説としてもまとめてもらいます。後者は後日インターネットで解説として掲載することも計画中です。 【学術分野】法・政治史、経済史、経済思想史、社会・社会思想史、イギリス史、都市史、イギリス地域文化研究 【授業形態】インターディシプリン型、博物館でのフィールドワークと文献批評を含む 出席、発表および議論への貢献等の平常点と小論文とで判断する。 初年次ゼミナール文科 31791 金 4 授業の目標・概要 【共通目標】 成績評価方法 授業のキーワード イギリス史、美術史、文化史、地域文化研究 教科書は使用しない。/Will not use textbook 教科書 書名 著者(訳者) 出版社 ISBN その他 ガイダンス 第1回授業日に行う。ガイダンス教室については掲示板等で告知する。 ウィリアム・ホガースと18世紀イギリス社会 大石 和欣 英語

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