2021Aシラバス
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1年 文科 理科 火 2 2年 文科 理科 1年 文科 理科 金 2 2年 文科 理科 時間割コード 時間割コード 総合科目 B(国際・地域) 50280 A 講義題目 授業の目標概要 説話文学、例えば『今昔物語集』や『十訓抄』といった諸作品は、数ある古典文学作品の中にあって、正直、人気がある方とはいえないでしょう。やたら上から説教してくるし、下世話な内容も少なくない。『古今和歌集』『和漢朗詠集』といった和歌・漢詩、あるいは『伊勢物語』や『源氏物語』といった物語文学などと比較すると、どうしてもB級の香りがすることは否定できません。しかしながら、『宇治拾遺物語』はそのような説話というジャンルに属しながらも、どこか他の説話集とは一線を画す、文学的な魅力にあふれているのです。いうなれば、B級文学のトップといったところでしょう。すごいんだか、すごくないんだかよくわからない、この不思議な作品をひもとき、その文学的意匠の巧みさ等について理解することを目指します。さらに、編集の文学とも呼ぶべき説話文学というジャンルそのものについても学びましょう。そして最終的には、現代にもつながるであろう、人と物語との多様な関係性について言及することができれば、と思っています。 50956 A 講義題目 授業の目標概要 本授業は2021年度Sセメスターに理科生限定で開講した科目、「日本語日本文学I(理科生)」を、文科生向けに拡充し開講 授業科目名 日本文化論Ⅰ 開講 授業科目名 日本文化論Ⅰ 『宇治拾遺物語』を読む なぜ日本人は古典を読めなくなったか たものです。同科目の履修者を含む、理科生の受講を妨げるものではありませんが、その点のみご留意ください。 このシラバスを読んでいるジュニアのみなさんは、個々の得意不得意はあるにしても、平均すればおそらく同世代のなかで最も古典文学(古文)の読解に長けた層だろうと思います。なかには、古文を得意科目とし、自由自在に読みこなしてきた方もいるかもしれません。しかし、そういう方でも、古文を現代文と同等のスピードや容易さで読むことは難しいでしょうし、現実にはある程度(かなり?)苦労しつつ、なんとか受験で点が取れる程度に読んできた方が大部分だろうと思います。 そんなみなさんは、こういう疑問を持ったことはないでしょうか。なぜ古文は読みにくいのだろうか。なぜ私たちは古文を読めなくなっているのだろうか、と。 この問いは、次のように言い換えてもよいかもしれません。「古文」と「現代文」は、いつ、どのようにして入れ替わったのか、その時には何が起きたのか。 具体例を一つお示しましょう。「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らずと言へり。されば天より人を生ずるには、万人は万人みな同じ位にして…」とは、福沢諭吉が明治5(1872)年に公にした文章です。そのわずか33年後の明治38(1905)年、夏目漱石は「吾輩は猫である。名前はまだない。どこで生れたかとんと見当がつかぬ。」という文章ではじまる小説を発表しました。この間には、いったい何があったのでしょうか。 この二つの文章は、まさに「古文」と「現代文」の断絶を端的に示しているようですが、実はその背後には、単なるテキスト上の問題にとどまらない、きわめて幅広い懸隔が横たわっています。いくら古文が得意だった方でも、いまからわずか160年前に出版された本を渡されて、そのまますらすら読める人はまずいないでしょう。文章の意味がわかるわからない以前に、くずし字で書かれた文字を判読する時点でつまづくはずですし、旧字・異体字など文字の種類やパンクチュエーション(句読法)も大きく異なるため、文字をすべて判読してもなお読めるとはかぎりません。みなさんが読んできた「古文」とは、そうした障害をすべて除き、現代人が読みやすいように整えられたテキストにすぎないのです。 では、このわずか160年程度の間に、いったい何が起ったのでしょうか。なぜ現代の日本人*は、わずか160年前に自国で刊行された本も読めなくなっているのでしょうか。 この講義では、幕末から明治にかけて「古文」が「現代文」になってゆく過程を紹介するとともに、古典籍を読むうえでの大きな障害となっている、くずし字読解のための基礎をお伝えします。前者の内容からは、みなさんがいかにも自然だと思われているだろう「現代文」、特に口語文小説の文体が、実はいかに不自然なものであるのかが、後者からは現在当然のように使われているひらがなと漢字が、まだ100年も使われていない、きわめて新しい字体であることが見えてくるはずです。 *ここで言う「現代の日本人」とは、人種・民族・国籍などとは無関係な、かなり曖昧な定義です。現代日本語を第一言語または準第一言語とし、ある程度のレベルの文章を文字によって読解することができる話者、またそれに準ずる力を学習によって身につけた、日本語を第二言語以下とする話者も含む、といった程度のニュアンスです。本授業では、日本語文化の変遷を捉える史的観点から、かりに「現代の日本人」という表現を用いているにすぎず、「日本人」とは何かという問題には踏込んでいないことをご承知おきください。 担当教員 中野 貴文 担当教員 出口 智之 所属 国文・漢文学 所属 国文・漢文学 曜限 曜限 対象 対象

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